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母の引越し1~序章

私には両親と兄がいて、私を除けば他3人は埼玉に居た。

居た。。

というのは過去の話で、先年、父と兄が他界した。

 

 

残された母はそれでも埼玉に住み続け、なんどか青森に
来い。との私の申し出を受け入れなかった。


ならばやむを得ず、我らが埼玉に越すしかないかと思案
しつつも、仕事の段取りを考えれば、いかなネットでの
やり取りと言えども、現場に在住していないのは不都合で、
踏み切れずに月日だけは過ぎていった。。


青森には時折り様子見には来ている。
青森に住めるかどうかについてだ。

数年前、駅に迎えに出た私は。。


「いつまで居られるんだ?」


と聞いたものだが、母はそれが気に入らぬと翌日帰って
行った。

のち、叔母からこう聞いた。。


≪青森に着いたとたんに、「いつ帰るんだ」
 と邪魔にされた。≫


まったく正反対に取られ、あっけにとられたものだ。

歳をとるということは、そういうことで。。
なにかと猜疑心が強くなる。

ましてや、大家族の長女として君臨してきた我が母は
我儘なのだ。


翌年、また様子見に来ることになり、今度は私も
慎重で。。


「まぁ、急いで帰る理由もないのだから、1週間でも
 10日でも、気のすむまでゆっくりしていけばいい」


と言ったところ。。


「いやそんなわけにはいかないのだ」


 と言い残して、また翌日帰った。。


今度は一番下の叔父から電話をもらい。。

「お前の母さんはさ。。「10日位で帰れ」と言われた
 と言ってたよ。」


ほほーー今度はそう来たか。。

と思った。


いずれにしろ放っとくに限る。。
と思い、昨年末にはせめて年越しくらいは青森で、というこ
とになり、やってくることになった。


電話で、私は母にかく言った。


「どうだい、こっち来たら行って見たいところとか、
 なにか目的はあるかい?
 どこへでも連れて行ってあげるよ」


せいいっぱいの親孝行のつもりではあった。

翌早朝、母から電話あり。。


「行くのやめた!」

と言う。。


やれやれ。。今度はなんだ??
と思うが、心当たりがない。。


ここは冷静に。。
 

「それはいいけど、どうしたの?」

と尋ねれば。。


「なんの目的で青森に来るんだ。。
 という言い草はなんだ!」

と電話口で怒っている。


これまた真意を真逆にとるのだ。

しかも今度はもっと複雑で。。

「それはお前が言ったんじゃなく、嫁が言ったんだ」

と言い張るのだ。


アホクサ。。と思いつつも・・

「そういう風に言った
 訳じゃないでしょ。。

 だいたい嫁がと言うが、
 直接話したわけじゃないだろ。。」


「直接は話してないけど、実の息子が
 そんなこというわけないから、嫁が言ってる
 に違いないと。。
 友達が言っている」


というわけで、なかなか話をややこしくしてくれる
お友達が身近にいたりするのだ。

 

懇懇と説明したが、振り上げた手の下ろし場所が
見つからないのか、ぶつぶつ言いながらも、それでも
ようやく最後には・・


「悪かった。。
 このことは○○さん(嫁)には
 言わないでね。。
 謝っておいてね。。」


とここ数年では殊勝な声ではあった。。

気をとり直して青森に来ることとなったが、今度は
直前に体調を崩してしまい、結局は取りやめとなった。

しからばと、我らが埼玉で年越しをすることとし、
車を嫌がる愛犬を無理やり車に押し込め、10時間程
かけて埼玉に行った。。


母の体調は思うより芳しくなく、日がな寝ている状態。

我らが来ていなければどうなるやらというほどである。

我が妻の世話と日頃不摂生な食事の改善あって、
年明ければ、快方に向かい一息つくが、やはり今後が
心配だ。


青森の我が家より、車で数分。
雪さえなければ徒歩でも通えるところに、昨年、
シニアマンション(老人ホーム)がオープンした。

特養老人ホームとは違い、どちらかといえば健康な
ご老人の居住マンション風のホームで、もちろん
看護師も常駐し、管理、看護体制の整った施設だ。

食事は3食つき、自炊も可能。

ひろびろとしたエントランスに、暑過ぎるくらいの
暖房、全室南向き。。
冬の青森とは思えない快適さだ。


それはそうで、なにせこの施設は以前、
「日○原○」という我が国の原子燃料を担う会社の
青森寮であったところで、その施設の豪華さは、
驚嘆すべきものなのだ。


施設内には、室内ゴルフ練習場に、フィットネスジム、
豪華カラオケルームに、屋上テニスコート。
さらには大温泉浴場まで備え付けられているのである。


原子燃料の施設は、青森市にはなく、はるか六ヶ所村
であるが、何故にこの青森市にかくも立派な施設が
必要か?
との住民運動がおき、しぶしぶ「○本○燃」はその
施設を売却したものだ。


それをそっくり老人ホームにした。

まるで前からそうであったがごとく見事に施設は
有効活用されている。


そんな話を母にすると、思いのほか乗り気なのだ。

要するに、歳経て息子夫婦に気兼ねして同居するのは
いやだが、食事や生活の心配のない施設なら楽でいい。

ということらしい。。


話だけではとのことで。。まずは体験入室をして見た。

正月も開ければ、もう体調は完璧などと言い張って、
即効で青森にやってきたものである。


数日滞在してすっかり気に入った母は、翌日には
青森に越すことになったからねと、親類中に電話しまく
ったものだ。

かくして、母は青森に引っ越すこととなった。
気が変らなければ。。。


(つづく)

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