岩のりのお話し ◆ つよい磯の香が身上 ◆ |
「岩ノリ」というのは、波の荒い外海の岩場にはえている、アマノリなど天然ノリのことです。
一般にクロノリともいいます。また、佐渡ではユキノリ、能登地方ではボタノリ、宇和島地方で
メノリ(芽海苔)とも呼びます。 特に、島根のウップルイノリや能登のものが有名です。
岩に生育しているときの岩ノリは、濃い黒紫色または、紫褐色などの光沢をしています。
つくだ煮で市販されている「岩のり」は、表示と中身が違うといって、1983年に公取委が問題
にしたことがありました。
養殖のアオノリやヒトエグサが主な 原料で、天然岩ノリは、わずかに入っているか、または、
まったく入っていない ものが多い、ということだったのです。
『採取時期』
宇和島地方では以前は、わら草履をはき、すべりり止めに、小指くらいの太さの
わら縄を草履と足の甲とに2~3回巻きつけていました。
漁村によっては、ノリの上に木灰をまいていることもあります。
岩ノリは、もっとも香りがいいのは、寒中にとったものです。 採取は、干潮時に
ノリの根元をのこして、手先でむしりとります。 根元を残しておくと、一週間くらいで
再生してきますから、採取シーズン中に3 ~4回採ることができるのです。
貝殻などで根こそぎ採るとその楽しみがなくなり ます。
波がなくても、寒い時期の岩ノリは短くてむしりにくいので一日(干潮時)に、 せいぜい
4キロほどしか採れません。
岩ノリはこのように、採りにくいことと、つよい磯の香りが人気で、希少価値があるのです。
『下ごしらえ』
採取した岩ノリは、入れものごと海水でゆすぎ、砂やゴミを取り除きます。場所 によってはアオサやハバノリなどが混じっていることがありますが、これはこれで 香りのいい海藻ですから、捨てずに持って帰ると良いでしょう。 下ごしらえは、ザルに入れたまま冷たい真水でさっとゆすぎ洗いし、水気をよく 切ります。 なまで味噌汁や酢の物にしてもいいですが、火で少しあぶってから使うと、香り がいっそうよくなります。 尚、水洗いして包丁で少したたいてから、使ってもいいでしょう。
『岩ノリの風味』
岩ノリは、食べ物の香りを大事にする日本人が、古くからとくに賞味してきた海藻です。
濃い黒紫色の光沢と、つよい磯の香りが特徴です。いわば、アサクサノリ(養殖ノリ)が女性的な風味であるのに対し、
岩ノリは男性的な野趣味をもっています。
能登の岩ノリも有名ですが、吉田健一氏は『私の食物誌』(中公文庫)のなかで、そのつよい「海のにおい」をことのほか
賛美しています。
能登のボタノリ(なまの岩ノリ)やオシキノリ(干した岩ノリ)を食べると、からだじゅうが磯の香りにひたっているような感じが
します。 干した岩ノリを火であぶった香りも、直接に海を感じさせるのです。
岩ノリの香りが良くわからない人もいるものです。「岩海苔は葉が厚くて硬く、香りはなく下等品で、やはり性質としても
浅草海苔が一番上等。八丈島の岩海苔は うすくすけず、厚いゴワゴワしたもので、干しノリとはおせじにもいわれたもの
ではない」(川崎房五郎『新版江戸風物詩』) 川崎氏は、「冷徹な歴史家」といわれるわりには、モノシラズです。
岩ノリのよ さがわからなければ、浅草海苔の良さだってわからないでしょう。
ノリは種類が多く、生でも干しても、浅草海苔が最高のものとはいえません。
日蓮の『御書』の中で日蓮は、身延山に入山していたころ、各地の信者たちからおくられた岩ノリやワカメなどの海藻に、
郷里小湊への郷愁をたぎらせています。
「あまのり、一ふくろ送り給ひ畢(おわ)んぬ、又、大尼御前よりあまのり畏まり入って候。(中略)今此のあまのりを
見候いてよしなき心をもひいでて・うくつ らし、かたうみいちかはこみなと(片海市市河小湊)の磯の・ほとりにて昔見し
あまのりなり」 などと記した信者たちへのお礼の返信がいくつもみられます。
岩ノリの強い香り は「憂くつらし」とまでいわせるほどに、日蓮の胸に染み入り、郷里の海を思いおこさせたことでしょう。
身延山でやせおとろえた日蓮にとって、海藻は貴重なカテであり、ビタミンの補給源であったに違いありません。
食の大切さを強調した日蓮の信念と海藻の香りとが、文面に波うっています。
伊豆の大島のノリトリのおばさんはこういいます。「手干しでつくった岩ノリは、機械干しと違って、なんともいえない
磯の香りと甘みがあります。これを食べてい ると、機械干しは口にあわなくなります」。
つくだ煮で市販されている「岩のり」は、表示と中身が違うといって、1983年に公取委が問題
にしたことがありました。
養殖のアオノリやヒトエグサが主な 原料で、天然岩ノリは、わずかに入っているか、または、
まったく入っていない ものが多い、ということだったのです。
『採取時期』
「製品となった岩ノリ」 |
岩ノリの採取期間は、ふつう12月~2月いっぱいまでの寒い時期です。 採取の場所や時間は、地域ごとに決められています。 岩ノリ採りは命がけの仕事です。波の荒い磯の上にはえていることと、海が荒れ やすい時期にとるため、波や足場に注意が必要です。また、波に濡れたノリの上を うっかり踏むと、すべって危険です。 |
宇和島地方では以前は、わら草履をはき、すべりり止めに、小指くらいの太さの
わら縄を草履と足の甲とに2~3回巻きつけていました。
漁村によっては、ノリの上に木灰をまいていることもあります。
岩ノリは、もっとも香りがいいのは、寒中にとったものです。 採取は、干潮時に
ノリの根元をのこして、手先でむしりとります。 根元を残しておくと、一週間くらいで
再生してきますから、採取シーズン中に3 ~4回採ることができるのです。
貝殻などで根こそぎ採るとその楽しみがなくなり ます。
波がなくても、寒い時期の岩ノリは短くてむしりにくいので一日(干潮時)に、 せいぜい
4キロほどしか採れません。
岩ノリはこのように、採りにくいことと、つよい磯の香りが人気で、希少価値があるのです。
『下ごしらえ』
採取した岩ノリは、入れものごと海水でゆすぎ、砂やゴミを取り除きます。場所 によってはアオサやハバノリなどが混じっていることがありますが、これはこれで 香りのいい海藻ですから、捨てずに持って帰ると良いでしょう。 下ごしらえは、ザルに入れたまま冷たい真水でさっとゆすぎ洗いし、水気をよく 切ります。 なまで味噌汁や酢の物にしてもいいですが、火で少しあぶってから使うと、香り がいっそうよくなります。 尚、水洗いして包丁で少したたいてから、使ってもいいでしょう。
『岩ノリの風味』
岩ノリは、食べ物の香りを大事にする日本人が、古くからとくに賞味してきた海藻です。
濃い黒紫色の光沢と、つよい磯の香りが特徴です。いわば、アサクサノリ(養殖ノリ)が女性的な風味であるのに対し、
岩ノリは男性的な野趣味をもっています。
能登の岩ノリも有名ですが、吉田健一氏は『私の食物誌』(中公文庫)のなかで、そのつよい「海のにおい」をことのほか
賛美しています。
能登のボタノリ(なまの岩ノリ)やオシキノリ(干した岩ノリ)を食べると、からだじゅうが磯の香りにひたっているような感じが
します。 干した岩ノリを火であぶった香りも、直接に海を感じさせるのです。
岩ノリの香りが良くわからない人もいるものです。「岩海苔は葉が厚くて硬く、香りはなく下等品で、やはり性質としても
浅草海苔が一番上等。八丈島の岩海苔は うすくすけず、厚いゴワゴワしたもので、干しノリとはおせじにもいわれたもの
ではない」(川崎房五郎『新版江戸風物詩』) 川崎氏は、「冷徹な歴史家」といわれるわりには、モノシラズです。
岩ノリのよ さがわからなければ、浅草海苔の良さだってわからないでしょう。
ノリは種類が多く、生でも干しても、浅草海苔が最高のものとはいえません。
日蓮の『御書』の中で日蓮は、身延山に入山していたころ、各地の信者たちからおくられた岩ノリやワカメなどの海藻に、
郷里小湊への郷愁をたぎらせています。
「あまのり、一ふくろ送り給ひ畢(おわ)んぬ、又、大尼御前よりあまのり畏まり入って候。(中略)今此のあまのりを
見候いてよしなき心をもひいでて・うくつ らし、かたうみいちかはこみなと(片海市市河小湊)の磯の・ほとりにて昔見し
あまのりなり」 などと記した信者たちへのお礼の返信がいくつもみられます。
岩ノリの強い香り は「憂くつらし」とまでいわせるほどに、日蓮の胸に染み入り、郷里の海を思いおこさせたことでしょう。
身延山でやせおとろえた日蓮にとって、海藻は貴重なカテであり、ビタミンの補給源であったに違いありません。
食の大切さを強調した日蓮の信念と海藻の香りとが、文面に波うっています。
伊豆の大島のノリトリのおばさんはこういいます。「手干しでつくった岩ノリは、機械干しと違って、なんともいえない
磯の香りと甘みがあります。これを食べてい ると、機械干しは口にあわなくなります」。
前へ戻る ≫
HOME > ためになる うんちく話> 特選海藻>