わかめのお話し ◆ 収穫から製品まで ◆ |
『採取』
・花曇り汐先にほふわかめ哉 新真
わかめは陽春を告げる海藻です。
所によっては粉雪の散らつくころを採り初めとしますが、一般的には花曇りの時期が
最盛期で、麦の穂の出そろう頃には終わりに近づきます。
新芽は寒中に芽吹き、いちばんおいしいのですが、それを採りすぎればその年の収穫
に影響します。 海藻の中でも最も手軽に食べられ、交換価値もかなり高いわかめは、
どこの浦でも昔から大切な収穫物でしたから、口明け日を定めて新芽の濫獲を防止
してきました。
明治15年の『大日本水産会報』には、次のように口明け月と終期は記されてい ますが、
実にまちまちです。
・長門(山口県) 2月~5月
・肥後(熊本県) 2月~4月
・出羽(秋田県) 4月~6月
・紀伊(和歌山県) 12月~2月
・佐渡(新潟県) 12月~4月
わかめは日本近海の特産で、広く全国的に採られます。 生えない地域は、北海道の
東部、北部、和歌山県の熊野から鹿児島県にいたる、太平洋側くらいのものでしょう。
アワビの生育地域と一致しており、古代のアマがアワビと一緒に採ったのも当然です。
よく生える場所は比較的淡水の多い所、たとえば湾奥の河口から流出した淡水が 回流
する、湾口から岬にかけてが多いようです。
ノリやヒジキより深い、2~3メートルから10メートルほどの水深個所に良く生えます。
浅い海に生えるのは、女性や老人が干潮の時期に小鎌で刈り、少し深い所は小舟を
あやつり、棒の先につけた鎌で刈りとります。
さらに深い所はアマが潜水し、刃の短い鎌で刈りとります。
『日本各地の名物わかめ』
・一浦は和布に黒む日和かな
採ってくると、砂上、岩上から家の軒先まで、いっぱいに拡げて乾す。
その後30センチくらいに切って束ねる。 これが塩ワカメです。
出雲で板ワカメ、能登でノシメというのは、ていねいに葉をひろげ、葉と葉のはしを少し重ね、粘着力を利用してはり合わせ、乾し上げた品です。 あぶって粉にし、振りかけにすると美味です。
対馬で「ワニウラコンブ」と称し、その昔将軍家にも献上したのは、実はワカメ 属のアオワカメです。 ふつうのワカメと共に養殖もされ、素干しのまま食べます。
塩ワカメは、潮気のために入梅になるとカビが生え、味もぐんと落ちます。 それを防ぐために淡水で塩を洗い落としたのが、塩ぬきワカメです。 糸ワカメは、三重県の答志島辺を中心として志摩名産とされたもので、ミチ(葉 の中央の茎状のスジ)をとり去り、乾燥してのち、こもに包んで約30分後にとり だし、手で1枚づつもみ上げて箸状にしておくと白い粉を吹きます。
江戸時代から伊勢参宮みやげとされています。 抄きワカメは岩手県の三陸名産。 三陸海岸では、よくきざみ、簀(すのこ)の上にならべて、ノリと同じような抄き製品を作ります。
湯抜きワカメは、生を2、3株ずつ縄でつるして熱湯に入れ、緑色に変わったと ころでさっと取出し冷水に入れてから取出して干します。
(灰干しワカメ)
灰干しワカメは、鳴門名産です。 鳴門ワカメの歴史は古いですが、灰乾法の生まれたのは、150年ばかり前のことです。
鳴門海峡に近い、里浦の前川文太郎は、讃岐国高松方面へワカメを行商していま したが、長雨が続く時には保存に困っていました。 数年苦心の末、新鮮なワカメの裏表に灰を振りかけ、長期の保存に堪える灰乾法を創案しました。
これを晴天の日に清水ですばやく洗うと、美しい緑色が浮き出ます。 灰乾しの「鳴門ワカメ」は大評判になって、阿波、讃岐、伊予等四国一円はもとより、遠く京、大阪方面へも売りに出るようになりました。
また、江戸へも藩主や藍商人の手を通じ、知られるようになりました。
明治時代もなかばを過ぎるころから本格的に売れ出しましたが、地元の原料が、 不足するので、三陸海岸から買い入れることになったのです。 大正11年ころでは地元産の5千貫に対し、三陸移入原料は4万貫にも達しているとの記録が残っています。 現在でも三陸海岸から、灰乾しにしたものを買いつけして製造しています。
現代の鳴門ワカメは、その特徴の美しい青緑色を浮き出させるために、なかには 色を増すため着色していることもありますから、鮮やか過ぎるのは避けた方が良いでしょう。
(加田ワカメ 他)
古くより著名な紀州の加田ワカメは、別名を色紙めといい、やわらかい葉を選び 、淡水で洗って、抄きノリ同様に仕上げます。
昔から京阪に送られ、巻き寿司や酒肴にされたものです。
『庖厨和名本草』という書物には、ワカメについて、伊勢物はなめらかでなく、 味も西国物より劣る。 西国では壱岐物が最もよいと記述されています。
ワカメ交易の歴史が古く、その調理法も進んでいる西日本には、壱岐のほかにも対馬、隠岐、五島列島などの島々、山陰、北九州沿岸等、昔からワカメを名産とするところが多かったのです。
東日本は、歴史的に立ち遅れましたが、佐渡や東北、北海道沿岸等まで、ワカメを名産とするところは多く、特に、岩手県漁業協同組合連合会が大々的に実施して いるワカメ養殖の発展はめざましいものがあります。
昭和24年に養殖試験を開始して以来、今日まで、生産額では実に120倍とい う大幅な伸びを示しています。 それまでのワカメの販路といえば産地周辺が主で、一部がデパート、スーパー等で売られていたに過ぎませんが、岩手県の養殖ワカメは、単に鳴門の灰わかめの原料となるだけでなく、県漁連の企画の下に全国的に売り出されています。
養殖技術の向上で、天然物より成長がよく、葉も軟らかく美味で、かつ計画的に生産できることから、岩手県の沿岸漁業はこれまでの採貝藻中心から養殖中心に体 質を変えつつあり、その影響は、今や全国のワカメ産地におよぼうとしています。
『日本各地のわかめの食べ方』
味の最も良いのは若芽(若い芽)です。 取り立ての新芽の三杯酢は最高の珍味ですが、干したのをきざみ、醤油に少々の酒 を加えた汁にひたし、ご飯にそえても美味です。
熱湯をそそいだ茶漬けも鮮緑色が美しくおつな味です。 出雲では、昔は長さ30センチ以内のをワカメといい、4月ごろにとる葉をひろ げたのをメノハと言いましたが、今はその区別があいまいで、一様にメノハという のは惜しいことです。
日御碕メノハは、出雲では十六島ノリ、安来のモズクと合わせ、三大名物海藻と なっています。 遠火であぶり、粉にしてご飯にふりかけたり、そのまま酒肴としたり、すまし汁に入れたりします。
最近は水洗いしてから味付けし、乾燥させ、味付けメノハを売り出していますが おつまみに大変良いですね。
山陰を中心としたワカメの料理法は、酢味噌あえ、味噌汁、吸い物、白あえ、白 ごまあえなどはどこの家でも作るものですが、このほか筍や豆、ちりめんじゃことの煮つけや、いわし、さば、あじなどの酢漬けとワカメのあえ物などがあります。
長州のワカメ結びは、山口県で国体が開かれたとき、同県の誇る味として、ちしゃなまず、いとこ煮とともに三大郷土料理に選ばれ、大好評でした。
長州を離れ住む人々も春が訪れると、結びを作ろうと故郷から届くワカメを待ち わびます。 よく乾燥したのを、まな板の上でちりぢりにきざみ、その上に握り飯をころがす と、ワカメが水気を吸い、自然の塩味と香りが飯にしみこみます。
長州人にとっては忘れがたい郷愁の味なのです。
『ワカメの漬物』
山口県の川尻岬やその60k沖合にある貝島、六島等では、漁家はもちろん農家でも、ワカメ(青ワカメ、ヒロメ)をきざんで、白うりに入れて「洞乱漬」を作り ます。
うりの実を取りだし、塩漬けにしたのち、数日間天日で干したものへ、ワカメの ほか、ごぼう、しそ、人参、とうがらし等をつめこみ、味噌漬にするものです。 家によっては、野菜を入れずにワカメだけをつめこむこともあります。
鳥取県弓ヶ浜で作る「浜漬」もこれに似ていて、白うりの中へ、ワカメ類を4セ ンチ位に切り、浜防風の葉や大根、人参の角切りとともにつめこみ味噌漬にするものです。
この地では、ワカメやカジメだけの味噌漬も作ります。 新芽を選び、さっと水洗いし、水気が切れる程度まで干したところで、味噌に漬けます。 味噌のついたまま刻んでそのまま食べたり、茶漬けにすると、磯の香と味噌が入 りまじっての珍味です。
どの漬物も、農漁民が激しい労働に堪えるために生み出されたものなのです。
『メカブ』
ワカメが成長すると、その岩についた根の近くに、厚い短いヒダができ、何枚もの葉をとりかこみます。 これが「ミミ」とか「メカブ」という俗称をもち、学術上は「成実葉」と呼ばれるもので、わかめの胞子ができるところです。
産地ではこれを乾し上げ、俵などへ無造作にしまっておき、調理にさいして洗い落として使います。 昔の人はこちこちに固くなっているのを刻み、さらにこれを摺り鉢ですって粉に して使ったそうで、大変な労力だったでしょうが、それにふさわしい美味なものです。
今は一般的には刻んで用います。 これに温湯をかけると特有のぬめり気がでて、自然の塩味と調和して、とろろ汁ができます。 これをメカブとろろといい、これも大変に美味です。
三杯酢にすれば、尚一段とよく、味噌汁に入れても緑色が見た目がよく、ぬめり気が食欲をそそります。 ただし、どの場合も、熱湯はぬめりを消し去りますから要注意です。
故吉川英治氏が大変好んだといいます。
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ワカメについていろいろと知りました。ところで、ワカメの加工食品で、海苔の佃煮の様にペースト状になった物は有るのでしょうか?。
投稿者: 関谷裕治 | 2010年05月30日 11:22先日ワカメの佃煮は出来ないかと塩藏ワカメを水でもどし、ペースト状に出来ました。スリゴマを合わせて食べたら美味しく戴けました。